道半ば












◾️ジョブスの追悼式で彼の妹で作家であるモナ・シンプソンがとても長い弔辞を捧げた。その最後の方のフレーズ……。

“We all — in the end — die in medias res. In the middle of a story. Of many stories.”

「私たちは誰でも結局“道半ば“で倒れるのです。たくさんの物語の中のある一つの物語の途中で」


と追い込んでいくレトリックにしているんだろうとは思った。
(in medias res=イン・メディアス・レスは“物事の中途で“というラテン語。これでサビを効かせているんだろう。)

日頃英語を喋っている人に確認したら、そうだといってくれた。
でも、さらに深掘りしてくれた。many storiesというのは「輪廻転生」も 含んだコンセプトかもしれないよって 。
頭の中で、火花が散った。

スティーブ・ジョブスは「一身にして二生」どころでない人生を折り重なって送ってきたので、それをmany storiesと表現したのだろうと思っていたが、それだけではなく、「輪廻転生」してきたいくつかのあの世まで含んだ ものをstoriesの中に包含しているのだろうと彼は言うのだ。

ティーブは何度か転生してきていて 、今回の生(せい)でわれわれにAppleを 見せてくれたのだろうか?


◾️山崎豊子が70歳を超えたとき、引退を決意して新潮社の斎藤十一氏の元を訪れたら、

「芸術家に引退は無い。書きながら棺に入るのが作家だ」

と言い放たれたという。
すでに80歳を超えていた斎藤氏は「私の葬式も近いので、生前香典代わりに新作を頂戴したい」と続け、その叱咤激励に山崎豊子が書いたのが『沈まぬ太陽』だったという。


◾️ファッションデザイナーの山本耀司も、インタビューに答えて……
次のように述べている。

「どのシーズンもどの年もどの瞬間も、
私は自分の義務を果たし続ける。
多分、リタイアはしない。
働く一生を送り、仕事中に倒れるのが私の理想だ。
覚悟はできている。
人々を興奮させたり、失望させたり、
その準備はできている」


そうなんだよね。「道半ば」がどうした!生きるってそういうもんだ……と聞こえる。

「人はチャレンジして後悔するよりもチャレンジせずに後悔する方が酷い」という。
チャレンジしている限り、いつかは「道半ば」になるのだ。いわば、それが勲章なのだ。

それにしても、

「人生というのは、誰にとっても、いつ、どんなタイミングで終わったとしても〝やりかけ“になってしまうものだ」
とか
「人生はいつもちょっとだけ間に合わない」

というのは切なくなるし、

「死ぬとわかっていてなぜ人は生きていけるのか?」

という根源的な問いは根源的に辛い。

(完)