歯痛はキツツキの嘴に触ると治る
北東アジアに居住するヤクート族(ロシア連邦サハ共和国あたり……)には、古くから……
「 歯 が 痛い 時はキツツキのクチバシに触れると治る」
という言い伝えがあり、信じられている。
歯が痛い。
しかし、彼らには、何が起こっているかわからない。
もちろん、歯痛への対処法もわからない。
原因も理由も何もわからない。
まさにカオスのなかに置かれる。人は、混沌には耐えられない。
そこで、何かしら、起こっている事態を分類し整理し、さらに何をどうしたらどうなるのかという因果の構図を引き出して提供している。
(キツツキのクチバシに触れるチャンスが一体どこにあるのかと問うまい……。)
これは知的欲求に応えたものだという人がいる。つまり、……
「分類整理は、どのようなものであれ、分類整理の欠如に比べればそれ自体価値をもつものである」
とクロード・レヴィ=ストロースは著作『野生の思考』のなかで喝破している。
なるほど。
これって、
「ライオンはライオンと名づけられるまえはえたいの知れない凶暴な恐怖であった。けれどもそれをライオンと名づけたとき、凶暴ではあるが一個の四足獣に過ぎないものになった」(開高健訳『動物農場』)
というのと似ている……ような気がする。
(完)
※クロード・レヴィ=ストロース(人類学)はフェルディナン・ド・ソシュール(言語学)とともに「構造主義」を代表する人である。