パナマ帽

毎年夏が来ると、我が領土は東南アジアの一角にあるのかと思う。もう、亜熱帯モンスーン気候と言ってはばからない。それが、今年の夏は「亜」が取れてモロ「熱帯」になった。地球がなんだかおかしい。

そんなことに関係したって言えば言えるのだが、急に「パナマハット」が欲しくなった。
植民地もしくは旧植民地に両親がここに移住してきた子孫。“クレオール"って呼ばれることが多い植民地系白人。もしくは、本国でワケあって、南方のこんな遠くまでトンズラしてきた白人。“クソッ、本国人ってだけなんで偉そうなんだ、同じ民族だろうが"とか“なんでオレこんなクソ暑いところにいなきゃいけないんだ"と内心大いに毒づきながらも、すでに本国にはどこにも居場所がない事が解っていて、白い太陽が燦々と輝くのを裏切って暗い憂鬱の鉛を胸の奥にずしりと横たえている。

後者の“逃亡者"に小林秀雄はむごいことを言う。

「世捨て人というのは彼が世を捨てたのではなく、世が彼を捨てたのだ」


そんな“南方系白人"が制帽のように被っているのが「パナマハット」だ。よれっと被るのが“ちょいワルオヤジ"風で粋。

善は急げだ(何が善なのか急げなのかは知らんけど・・・)。デパートの帽子売り場に足を運んだ。これこれ、これだ。なかなかの佇まい。これにしようじゃないかと値札を見ると、80,000円とある。そーっと元の場所に戻し、踵を返してデパートから逃げるように出てしまった。オノレの小物ぶりに涙がでる。わずかなハシタガネに震えてしまったのだ。
それにしても、あの「パナマ」の風合いに未練が残る。汗のようにタラタラと。

ならばと、インターネットで検索を掛けた。見つけたのが、PanamaHatMallというショッピングサイト。デパートで気に入ったものと瓜真っ二つのものが、邦貨で20,000円弱。Fedexが3000円。それをオーダーしてしまった。時はすでに8月3日。翌日、メールが届き、「Fedexは日本までサービスはしていないので、EMS(国際小包便)にしてくれないか?ただし、10,000円ほど余計に掛かる」……“なんじゃこれ?国際詐欺か"。ショッピングモールの住所がエクアドルになっているではないか!“オレ、こんなトコに注文しちゃってたの?"

英語で赤道のことをequatorっていうが、そのスペイン語がecuadorでそれをマンマ国名にしてしまっている。首都のキトは正しく赤道上にある。そして、あのガラパゴス諸島はこの国の沖合にあり領土の一部。

正式の「パナマハット」というのはこのエクアドルで生育したトキヤ草から編み上げられたものだけに冠せられるらしいのだ。じゃ、「パナマ」って何だ?あのルーズベルト大統領が「パナマ運河」の視察の際に好んで被り、その写真が世界中に流布されて、以来「パナマハット」と称するようになったのだという。(まぎらわしいんだよ!)

それはそれでよいとしよう。よくないのは「EMSで構わん。エクストラ・チャージも支払うから送れ」というこちらからのメールの返事が来ないのだ。毎日のようにメールを送るが、“赤道国"からはウンともスンとも言って来ない。“ヤラレたのか?"……ふと、それまでのwindowsからのメールをやめて、iPad(つまり、Safari/gmail)でメールしたら、ヤレ不思議や、直ちに返事が来た。もう既に8月中旬。
現物は28日に北緯28度の我が家に届けられた。

幸いにも(?)、猛暑は9月も続き「パナマハット」を被るチャンスは幾度もあった。
半分以上はギャグで被っているので、キリリ!と装うことも、よれっ!と着崩すことも、中途半端のどっちつかずなのが難といえば難。。

もうすでに秋。
パナマハットは水洗い陰干しにして、乾燥剤を入れて来年の酷暑まで密封しておこう。
アディオス!猛暑の夏……。

(完)