随分昔は“マイクリスマスソング”って『コンドルは飛んで行く』だった。(それは次回に述べる)それが、ここんところは“Amazing Grace”になっている。

彼女リアン・ライムスは天才少女には違いない。最初聴いたときにはずっと息をつめていて、曲が終わってからふいごのように大きな息をして喘いだ。彼女のシングル・デビューは“Blue”、なんと13歳のとき。この“Amazing Grace”を歌ったのは、15歳の頃だって聞いた。"How Do I Live"では69週間(つまり1年4ヶ月ほど)ビルボードチャートにランクインしぱっなしという記録を持っている。現在は28歳になっているのかな。


 
 危ない目にも いっぱいあった
 苦しい想いも いっぱいした
 それを乗り越え ここまで来た
 慈悲深い神様が守ってくれた
 今日まで安全に導いてくれた
 愛しいあなたが家まで送ってくれるだろう

 悲しい涙も いっぱい流した
 辛いことも いっぱいあった
 それを乗り越え ここまで来た
 慈悲深い神様が守ってくれたから
 今日まで安全に導いてくれた
 愛しい貴方が家まで送ってくれるだろう
 ♪

とにかく心がシーンとするほどうまいんだが、異なるアングルからの感想もある。
彼女はカントリー・ミュージックの歌手だ。カントリーの娘がこの歌い方ができるのか、という驚きだ。つまり、唱法がアフロ・アメリカンのそれだ。

これを作詞したのは永らく奴隷船の船長をしていたジョン・ニュートンというイギリスの男だという。このニュートンは、信心深い母の教えにもかかわらず、放蕩の限りを尽くし、挙句の果てに奴隷貿易船の船長になった。その船が大嵐で難破寸前にまでいき、その時に生まれてはじめて神に祈った。そして助かった。その時の経験をもとにしたのがこの歌ということだ。
そのニュートンがアフリカからアメリカに運んだ黒人奴隷の末裔がアメリカの音楽を支える人たちになろうとは、露ほども思わなかっただろうな。音楽的天才民族のアフリカンがその資質を新大陸で発揮した事こそが“神の恩寵”−“Amazing Grace”というべきなんだろうな、きっと。

時々思うのだが、この世に「アメリカ合衆国」という国がなかったら、随分とわれわれが手にしてないものがあるよな、ということだ。ジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシなどは絶対に口にしていない。……食べ物はとりあえず置いておこう、ここは。

音楽については深刻にそう思う。もう一度仮定法を使ってみる。「もしアメリカ合衆国に黒人が連れて来られなかったら……」と考えると、すごい事になる。スピリチャルとかゴスペルは当然としても、ジャズ、ブルース、R&B、ロックンロール(ロック)、ソウル、……ラップ。これらをわれわれは知らないでいるはずだ。
ユーロ・アメリカンが祖国から持ってきたバラッド、南部の白人の音楽ヒルビリー(現在のカントリー・ミュージック)さえも黒人音楽の影響を受け続けてきたというし……。

黒人の唱法をマスターして、ヒルビリーとロックンロールを融合させた(ロカビリー)のがエルビス・プレスリーというのは有名な話だ。一人の天才が歴史を作った。だから、ジョン・レノンは「プレスリーの以前には何もなかった」と言ったんだと思う。
そんなことからすれば、リアンが“黒っぽく”歌うのは何の不思議もないのだが……。

黒人の人口比率は12.5%.。(ヒスパニックは12.4%と迫っている…双方合わせて25%というのも改めてすごいなぁと別の観点から思うが……)しかし、アメリカの音楽シーンに与えた影響力ってこんな数字ではない。彼ら民族の血とか息遣い、鼓動がアメリカの音楽を支配さえしているように見える。そして「アメリカの音楽シーン」という定義がすぐに「世界の音楽シーン」とほとんど同義語である状況に今はいる。

そして最近友人のひとりが“so this is Christmas"を教えてくれた。ジョン・レノンの“Happy Christmas(War is over)"のカバー曲。多分歌はセリーヌ・ディオンかと思うが自信はない。画像がいい。泣けてくるほどにいい。 いや、泣いた。


で、今日はクリスマスだけど
君達は何をしてきた?
また一年が終わり
新しい年のスタートだ
そう、今日はクリスマス
君達に楽しんでほしい
身近な人に、愛しい人に、
お年寄りも、若い人も。

楽しいクリスマスと
良い新年をお迎えください
何の不安もない良い年であることを願いましょう

そう、今日はクリスマス
弱い人へ、それと強い人へ
富める者へ、それと貧しい者への。
この世の中は全く間違っている
だから、ハッピーなクリスマスを
黒い人へ、それに白い人へ
黄色い人へ、それに赤い人へ
全ての戦いを止めましょう

楽しいクリスマスと
良い新年をお迎えください
何の不安もない良い年であることを願いましょう

それで、今日はクリスマスだけど
私達は何をしてきた?
また一年が終わり
新しい年のスタートだ
だから、ハッピーなクリスマスを
君達に楽しんでほしい
身近な人に、愛しい人に、
お年寄りも、若い人も。

楽しいクリスマスと
良い新年をお迎えください
何の不安もない良い年であることを願いましょう
戦いは終わった、君たちが望むなら
戦いはもう終わったんだ

ハッピークリスマス!

ジョン・レノンが原曲にwar is over.と願いを込めたとしても、人類は決して戦争を止めない。これからも続くのだろう。キリスト教徒のクリスマスに限らず、年に一度くらいは家族がともに集まり神(もしくはそのようなもの)に祈りを捧げられる人々は地球上に何%くらいいるものなのか?
それぞれの民族がそれぞれの“Happy Christmas"を持ちたいがために他の民族と戦争をするという絶望的な矛盾。


フィンランドコルバトントリー山に住むというサンタクロースがひとりで担当するには、世界は広過ぎるし、複雑に過ぎる。

(完)