【ショート・エッセイ】デビット・ボウイ

ある人に「あなたは不思議な人に不思議なタイミングで出会う人ね」って言われて、「人生長いからだよ」って答えたけど……。youtubeを見てデビット・ボウイのことを思い出した。彼のライブなど一度も行っていない。そもそも、いい男で歌がうまくて女にめちゃめちゃモテる男のライブなぞわざわざ観に行きたいとは思わない。

80年代頭だろうと思うけど、NYのマンハッタンに「ザ・パワー・ステーション」という当時で最も時代の先端を行っていた録音スタジオがあった。名前が表すようにかつては「コン・エジソン社」の発電所であったものをリノベーションしてスタジオにしたものである。ここから幾多のアーチストの音が誕生していった。(96年には「アバター・スタジオ」に改名している。なぜかは知らない。)

いまでは30年以上の付き合いになるアメリカ人が、その当時は作曲家をやっていて、その“発電所”で録音があるというので、連れて行けと脅した。入口からスタジオに向かうエレベーターのなかで、そいつが「隣のスタジオでデビット・ボウイが歌入れしているらしいよ。見てきたら……」というので、頑丈なドアの丸窓越しではあったけど、眺めた。“極くカジュアルな格好なのに男の色気のようなものが溢れているのね……”まあ、歌手は歌を歌っている時が最もかっこいいものだけど……。

90年代に入っていたと思う。パリでウロウロした後、飛び乗るようにシャルル・ドゴール空港で南仏・ニース行きのフライトへ。その待合室で思いがけずにデビット・ボウイに再び会った。女性と大きな荷物を帯同している。女性は身に着けている衣装がusualではなく、その原色が勝ったフォークロアな雰囲気が待合室の空気を支配していた。紛れもなくアフリカ人だろうと思われた。その分だけボウイが青白く儚げに見えた。

知らなかったが、後で調べると彼女はイマン・アブドゥルマジドというソマリア人で、かつては一世風靡したスーパーモデルであった。現在では彼女との間に娘がいるらしい。

(完)