国境を越えるとき

ワシントンDCを真っすぐに北に上り、ニューヨーク州を縦断して、五大湖の一つオンタリオ湖から流れ出て大西洋に注ぐセント・ローレンス川を渡る。渡るとカナダ。真っすぐに行くと首都オタワに行く。そこから東へ折れモントリオールに向かい、ケベックを目指したロング・ドライブであった。
そのセント・ローレンス川の橋の上のカナダ側にイミグレーションがある。入国審査である。パスポートを見せる。なんという事もなく入国はできたが、車で国境を越えるというその事にドキドキした。つまり、周囲を海に囲まれた日本に生まれた者とすれば、国境というのは海のどこかにあるはずのものだ。船か飛行機で越えて行くものが、車とか徒歩で行ける事がスリリングであった。

(地図)
https://www.google.co.jp/maps/place/Rue+Ottawa,+Montr%C3%A9al,+QC+H3C+%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%83%80/@45.30112,-72.2270976,8z/data=!4m2!3m1!1s0x4cc91a605f2720c3:0x9eddc6c07d0b7e1c


スイスはジュネーブ。ヨーロッパで2番目に大きな湖と言われているレマン湖の周りを一周してシオン城も見たいしと、レンタカーを借りた。

(シオン城)

もちろんジュネーブから出てゆくのでスイス領なのだが、その湖岸道路に“通せんぼ”のようにイミグレーションがあり、ここからはフランス領だという。パスポートを見せてしばらく走るとまたイミグレ。再びスイスに入るのだという。
まあ、このあたりではスイスの住人が道路向うのフランス領のパン屋でクロワッサンを買うのは普通のことらしいのだけど。
こういうのはECになって今では簡略化もしくは自由になっているのかしら?


ロスアンジェルスにいたとき、南のサンディエゴを経てメキシコのティワナに行った。3時間ちょっとのドライブ。友人の誰もティワナ行きを薦めなかったワケは分かった。道はそのまま続いているのに、この彼我の差は一体どうしたことか?「貧富の差」がそのままビジュアライゼーションされている。ただただ心がすっかり萎んでしまった。

アメリカとメキシコの国境線はほぼ3,000キロメートル。日本列島の南北の長さに等しい。ここにフェンスとか国境警備隊とか時には陸軍まで動員してメキシコからの不法入国者を防ごうとしているがハナからムリな話だ。余りに国境が長過ぎるということと、フェンスの向うはキラキラと光り輝いているこの世の楽園のようなところだもの。(仕事もあるしドルもある。)
それにしたって、アメリカの経済活動はその不法入国者(毎年100万人)を前提にして成り立ってしまっているじゃないか……。

それにしても、サンディエゴからティワナに向かうフリーウエイにあった標識が忘れられない。「人間(不法入国者)の飛び出しに注意」というものだ。「鹿の飛び出しに注意」【Deer Xing】は分るんだけど、これはなあ〜。分り易いけど酷すぎるんじゃない?


改めて、国境ってなんなの?
(国家の概念からいかなきゃならないが、そこは割愛して……)

つまり国境って“縄張り”なんだと思う。
狼とかライオンとかプレイリードッグのようなものまで毎日々自分たちの“縄張り”の見回りに余念がない。彼らにとっては“縄張り”というのが=狩り場で、一族が食べて行けるだけの獲物がいる場所ということだ。
そんなことで言えば、ヤーさんの“縄張り”も国家が為す“縄張り”も似たようなものだ。

実際のところは、かく言うカリフォルニア州米墨戦争で1848年にメキシコから取り上げて縄を張り直したものだし、まあその前に、米国という国自体がアメリカン・インディアンから略奪したものなんだけど……。


人工衛星から見える人工構造物は万里の長城とオランダの干拓地の大堤防だというのがあったが、これは中国の宇宙飛行士のフカシであったらしい。でも見えたらおもしろかったのに……。人類の最大のエゴのひとつの国境の一部が見えるということになった。

万里の長城」は北方遊牧民族などの異民族の浸食に備えるために幾つもの王朝が連綿と建設した“縄張り”だ。延べ2万キロメートルを越すという途方もなさだ。
一方オランダは「神は海を作り、人は陸を作る」と唱えて、小さな“縄張”りを少しでもと海に張り出した。

そのオランダとベルギーの国境はいかにもカジュアルだ。(+印の左はオランダで右はベルギー)
ベルギー、オランダ、ルクセンブルグは三国で“ベネルクス”という呼称を用いるくらいに文化的にも言語的にも共通しているし、少なくとも近い。こういう武張ることがないところでは、カフェの足元にさりげなく、“縄が張って”ある。

(完)