愛しき動物たち⑧〜モントレー半島の動物たち〜


最近では日本でも名前が売れたTED(デザイン・エンターテイメント・デザイン)の第一回がカリフォルニア州モントレーで1990年に開催された。
ここはサンフランシスコから南に200キロくらいのモントレー半島に位置している。「モントレージャズフェスティバル」なども有名で、“シリコン・バレー”にも近く、ゴルフの「ペブルビーチ」もすぐ近い。半島の南側にはカーメルという砂糖菓子でできたようなかわいらしい街並みの町があり、かつてクリント・イーストウッドが市長をやっていたこともある。

(←カーメルのカフェ)

スタインベックの『エデンの東』はここモントレーが舞台であったはずだ……。
いずれにしても、この地はクリエイティブな人々が集まる。と、同時に“アメリカン・ドリーム”の一部をなし、東海岸で成功を収めた金持ち達がその“第二の人生”をここの周辺で過ごす。(最近ではFace Bookのマーク・ザッカーバーグがこの近辺に住んでいる。)
モントレー↓)

セッションやパネルにも疲れ、食事の後近くの桟橋に行く。魚の切り身が紙皿に1ドルだか2ドルで売られていて、それを手にして桟橋の奥に進むと、観光客が海にその切り身を投げ込んでいる。みるみるうちに海面が盛り上がり海獣がそれを咥えて再び海に潜る。英語ではシー・ライオンというアシカである。
昨夜、この近くの船上レストランで食事をしたときに……
「ヤケに犬の鳴き声がうるさいね」
と言ったら、大笑いされて……
「あれはね、シーライオンよ」
って言われたっけ。あれがこれか。

何切れか投げ込んでみる。餌を銜えて海底へ戻るときに、糞をひるヤツもいて、一面が黄色に染まる。


投げ込もうとしている右手の袖口をツンツンするヤツがいる。脇に顔を向けると手すりにいつの間にかペリカンが一羽止まっていて、

そいつが…
“アシカにだけじゃなくオレにも呉れよ”
と、傲岸不遜な顔でボクを見つめている。切り身を空中に放り上げるとひょいとキャッチして嘴の下部の袋にしまい込み、またじっとボクの顔を凝視している。じゃ、また。何度かで紙皿は空になり……
「もう終しまいだぜ、相棒!」
と言うと、何の礼も言わずに大きな翼をゆるやかに羽ばたいていってしまった。

帰りがけ、その桟橋にWhale Wachingという大きな看板が出ているのを見つけた。明日はこれに行ってみよう。
ワシントンDCの「スミソニアン博物館」のなかの「自然史博物館」のファサードに吊るされてある“捕らえられたものなかで一番大きなクジラ”ということで31メートルのシロナガスクジラアメリカ人は尊敬を込めてBig Blueという)には息を呑んだものだ。だがここのはGrey Whalesといい日本ではコククジラといいシロナガスの約半分の体長だとか……。

定時に船は出た。期待に目をキラキラさせた善男善女たち。岸が見えなくなるほどに沖合に出たのにまだ遭遇していない。アナウンスがある。
「お待たせしてすみません。今日のクジラはなかなかシャイで顔を見せません。でも大丈夫です。もうちょっとの辛抱です」
レーダーだかソナーでクジラの影を追っているのだ。
「皆さん!進行方向右手の海面を見ていてください!よそ見せずにね!」


突如海面が大きく盛り上がり大きな生き物がせり上がってきた。十分にデカいじゃないか!
オー!!とどよめく乗船客たち。
最後に尾を大きく掲げて深い海に戻って行った。
また観客たちのオー!!
その日は幸運にも、他の一頭も上半身のせり上がりと尾を掲げるものをまるで契約でもあるようにやってくれた。

やはり、クジラは食べるものではない。大きな海にいる大きな生き物として敬うものだと思う。人間の卑小なることを確認するために存在していると思う。
クジラはゴンドワナ大陸やプレートテクとニスで現在の大陸がどう形作られてきたかも知っているわれわれ人類の大先輩の生き物だ。いまだに米国務省にある「クジラ類コミュニケーション局」がクジラの言語の研究をしている。この成果が上がった暁には彼らの祖先からの口伝で現大陸生成の推移を聞かせて貰い、さらに “もう一つの宇宙”と言われている深海の有様や彼らの歌う歌の意味などが描写されるはずだ。その日がくることを楽しみにしている。


いずれにしろ、とりわけこのモントレー半島は生き物の影がしたたるように濃い。

(完)