愛しき動物たち⑨〜キツネ


LAの北西部に位置するシャーウッドゴルフクラブロビンフッドの森の意)。何番ホールか忘れたが、次のホールに向かうために小高い丘の頂上に出ようとしていた。カートはすでに先に行き、バンカーで失敗したことを悔やみつつ、その胸突き八丁の坂をクラブを杖がわりにしてやっとのことで上りきったその鼻に、それは目に飛び込んできた。そのあたりは、この地方に多い葉が細くて長い植物が一体に生えていた。その一箇所が……ちょうど漏斗のようになっていて、その中心にちょっと赤っぽい動物が昼寝をしていた。そのコシのある草の茎のハンモックはいかにも心地よさげで、「しとね」とはこのことを言うのだろうなあ……と頷きながら眺めていた。腹が規則正しく動いているので生きているのは間違いない。“キツネ……だよね”と自信のない確認をして、彼を起こさないように足音を忍ばせてその場を去った。

後ほど調べたら、「レッドフォックス」の亜種で絶滅が危惧されている「シェラネバダレッドフォックス」らしいかったので、少なからず驚いた。


以前も、北海道のゴルフ場の打ち下ろしのショート・ホールで、アドレスに入ったとき、グリーンの横に野良犬が現れた。アドレスを解いてよく観察するとどうもキツネのようである。「キタキツネ?」とキャディに確かめると、そうだと頷いている。そいつはしばらくその辺りを偵察して、しなやかな身のこなしでフッと消えた。そのときも、ゴルフのことなどどうでもよく、キタキツネに会えたことが宝物であった。

実を言えば、キタキツネに会うのは二度目であった。北海道で小学生をやっていた頃の話。町のなかはもう雪がなくなったことに気分が高揚して、仲間何人かと自転車で出かけたのはよかったのだが、市内を外れるとまだまだ雪は残っていて何度か雪にタイヤをとられて転んだり、仕方なく歩いて自転車を押していったりと、散々な目に会い、そのうち日も暮れかかり急に温度も下がってきた。内心は泣き出したいのだが仲間の手前そんなわけにも行かず、みんな無口になって帰り道を急いでいた。

「なんだあれ?」

という声に雑木林の方をみると、その手前の開けたところ……まだ完全に雪が残っていて白一色の雪原をやや大型の白い動物が跳躍している。

「ウサギだ!雪ウサギだ!」


(←太い幹の根本に
冬毛のエゾウサギ)

夕日を浴びてそいつは十メートルほどの空間を三回の跳躍で通過していった。その後を別の動物が追ってくる。

「キツネだ!キツネが追いかけているんだ!」

でも、彼の狩は完全に失敗だった。われわれの方にちらっと一瞥をくれると、追うのをやめ方向を九十度転回して奥の雑木林へフォックストロットで駆けて消えた。

残雪の夕日のなかで展開されたもの……冬毛の真っ白なエゾウサギとキタキツネは子供たちにとっては十分すぎるほどのスペクタルであった。

(完)