ブラックユーモア

かなり前だが、旅先のロンドンのホテルでSpitting Image という番組を観て相当に驚いた。(ITVで放送:1996年に終了)これはマペットショーなのだが、このパペットたちはサッチャー首相とか米大統領とか英国女王たちをカリカルチャーしているのだが、ものすごく醜悪でいやらしくてうす汚い。そして劇中では、サッチャーレーガンがいきなりブチューとキスをしたりするワケですね……。


いわゆるイギリス人の諧謔精神というかブラックユーモアの腰の据わり方を感じた最初であった。
日本人にとってみりゃ皇族を風刺したりからかったりなんてなかなか想像できないし、我が宰相と韓国大統領がブチューってやっちゃうなんて未だにこの国ではできない。


その後、米系の資本だがマネージメント自体はイギリス人という企業に参加して、いやってほどに彼らのユーモアなるものの洗礼を受けた。(実際には聞き取れなくて分からない事が多く、分かっただけの範囲だが……)

日本ではブラックユーモアって言うが、イギリス人にとってみれば、ブラックは付けずにただ単にユーモア。要するに、ユーモアというのは黒くて当たり前、黒くなきゃユーモアじゃない。むしろ、どれほど黒いかを競う“知的格闘技”といっていいのかも知れない。

この思いっきりブラックな“ユーモアが分かる”とか“ユーモアセンスがある”ということがイギリス人にとってのプライドの重要な部分であると同時に、人柄を評価するときの大切な評価軸でもあるらしい。
日本人はどうしても真面目さとか勤勉さが評価の対象になることを思えば、日英間ではある人物の評価がほぼ180度違うという恐ろしいことになる。

初対面のアメリカ人と二言三言ことばを交わして、四言目に繰り出してくる「ジョーク」に対応出来なくてオタオタするのが日本人。
だが、イギリス人はそのアメリカに暮らすと、それらのjokeでは飽き足らなくsense of humor が欲しくなり英国が酷く恋しくなるというのだから、日本人にとってhumorというのは冥王星(最近太陽系から外され、太陽系外縁天体になったが……)のように遠い。

とあれ、彼らが愛してやまないユーモアは人類学的にとか考現学的に面白いものでも、それがビジネスの場に混入してくるのは、神経をピリピリガリガリと逆なでする。“本当に性悪なヤツらだ”って思ったが、これは間違っていなく、この国民のデファクト・スタンダードがまさに“底意地が悪くイヤなヤツら”だと思う。だからこそ、「大英帝国は陽が沈まない」とまで言われた植民地政策の大成功は彼らの虚偽と策略と暴虐により為されたはずなのだから。

そうなのだ。そういう種類の民族が涵養してきた「底意地の悪い性悪な混ぜっ返し」というのが彼らのユーモアの定義だと思う。
だからなのか、前記のSpitting Imageも含め、英国のコメディアンやエンターティナーたちは攻撃的にタブーを引っぱがす形のユーモアを好み得意としている。そしてこの モチーフは時・場所・対象・禁忌を選ばない。王室も宗教も民族問題も殺人事件も大事故も彼らの毒舌の餌食から逃げることはできない。

二年ほど前、BBCの番組で「世界一運が悪い男」として、広島と長崎で二重に被爆し、その前年に93歳で亡くなった長崎市出身の日本人を取り上げた。

司会者が「出張先の広島で被爆し、列車に乗って戻った長崎でまた被爆した」と説明すると、ゲストらが

「でも、93歳まで長生きしたなら、それほど不運じゃない」
「原爆が落ちた次の日に列車が走っているなんて、英国じゃ考えられないな」

などとコメント、会場から笑いをとった。
これを知った在英日本大使館が厳重抗議し、番組制作会社からの謝罪はあったらしいが、BBC自体は黙殺。

日本では日教組、農協、統一教会、大相撲協会高野連などなどがタブーのまま置かれて、だれもなんともしない。(最近の事で言えば、東京電力に対してなんでみんなあんなに紳士的なの?あれだけダダ漏れされておいて……)もちろん、日本の芸人と呼ばれる人種は予定調和の中で毒にも薬にもなっていない。英国ではコメディアンがこれらの“悪”をおちょくったり当てこすって毒を吐いている。(spitting)

チャップリンは……
ヒトラーという男は笑い者にしてやらねばならないのだ」
と言って映画『独裁者』を作ったが、それと同じ根性の決め方を彼らにも感じる。


好きではないが、かれらイギリス人のそういう「覚悟」のつけかたには敬意を表するところは大いにある。

第二次世界大戦中の英宰相ウインストン・チャーチルも相当にブラックに決める人であった。彼から多少学ぼうか……。

■何かのパーティで、
「随分と酔っているじゃない?」
とエリザベス・ブラドッグという女性議員に言われて、
チャーチルは…
「そうだよ私は酔っ払ってるよ。しかし朝には私の酔いは覚めてシラフになるが、君は朝になっても不細工だ」

※いいのかな?時の宰相だよ。こんなに毒たっぷりに盛り込んで。これが紳士の嗜みのsense of humorなワケ?

■ズボンの前ボタンが開いていますと注意されたたときチャーチルは、
「気にしなくていい。死んだ鳥は巣からでないから」
と言った。

※まあ、これはソクソクと迫るものがあっていいかな……?


最近見つけたもので、危ないけどいいなって思うもの……

■ある英国人がオーストラリアへ移民しようと移民局で手続きを始めました……
移民局:「犯罪歴はありますか?」
英国人:「やはり必要なんですか?」


(完)