北帰

人は思い悩んだり、傷ついたときに旅にでる。そんな自分をいとおしかったり、いじらしかったりするのだが……。つまり自己憐憫。これは自己愛の変形でナルシズムに他ならない。
「安全な場所で味合う悲しみは、ある種の娯楽だ」
って喝破している人もいるくらいだし……。
そんなとき目指すのは大概の場合、北だ。北帰行。ちょいと寒い風が吹き、出来れば小雪まじりで、モノクロームで陰鬱にふさぎ込んでいてくれれば、舞台は整う。簡単に言えば“演歌”の世界。

これってなんなんだろう?それは日本人の主流派が「北モンゴロイド(新モンゴロイド)」に属する「弥生人」だからじゃないかと睨んでいる。(弥生人起源の日本人は約70%らしい……)


(「ネグリト」とはスペイン語で“小黒人”の意。身長が小さいアフリカのピグミー族に近い人々。)<氷期+干ばつ>のアフリカを出た現世人類は海沿いを歩いて南インドに至りここでしばらく居住した。
そのあと、南アジアへ展開する。(彼らが「南モンゴロイド(古モンゴロイド)」になっていく人たち)。さらにこのグループは海沿いに歩いて(当時陸続きだった)日本列島にも来て縄文人……アイヌ人や沖縄人……になったが、そのまま太平洋を右に見ながら北上し、ついにはベーリング海峡(当時は大陸だったが)を越えて北アメリカ、次いでは南アメリカを走破して“インディアン”(「アメリンド」)になった。
さらに、オーストラリアへ行ったものたち(「オーストラロイド」)、コーカサスを越えヨーロッパへ進出したものたち(「コーカソイド」)、そして北インドからさらに北の中央アジアへと……四方八方した。

それそれ、その北部中央アジアの「北モンゴロイド(「新モンゴロイド」)」にフォーカス。ここは「マンモス・ステップ」と呼ばれて、マンモスの一大生息地であった。彼らは生涯マンモスに付きまといその肉を食い、マンモスの骨で作った家に住み、その毛皮をまとい……と、なにからなにまで依存して生きてきた。依存されちゃったマンモスは大いに迷惑千万。逃げる野牛をどこまでも追いかけてゆくしつこい狼の群れと同じだ。(あの有名な日清カップヌードルのCM「hungry?」はウソではない。)
だがマンモスが絶滅し(人間が食い尽くして滅んだという説さえあるが……)、彼らは現在の中国あたりの南へ移動し、さらにそのなかから日本列島に移り住んで来たものたちがでてくる。日本に米とか鉄器を伝えた弥生人と呼ばれる人たちのことだ。
弥生人のDNAのなかには冷涼な北部中央アジアが恋しいというメモリが書き込まれているのじゃないかなって思っている。

……そういえば「元の北帰」というのもあった。豊穣な中原を制して折角「元王朝」を打ち立てたのに、このモンゴル人たちは足摺りするようにモンゴル高原のゲルを恋しがり、なにかと理由をつけては“帰巣”した。帰巣本能ってハトだけではない……。

だがね、日本人には南十字星を頼りにしながら太平洋のなかの“川の道”を辿って、カヌーでやってきたポリネシア系だっている。彼らは心が病んだときには、陽気でカラフルな南へ行くだろうなって思う。南の島へ帰巣して、強い太陽光線を浴び、すっかり青白くなってしまった弱い心を殺菌するために日に焼くんじゃないかと思う。

(完)