リベンジ

在日韓国人”ジュニアと呼ぶのだろうか……。とにかく、父親が日本に帰化したその息子が学生にいた。……というか、彼が以下の話をしてくれたから、そうだったのかと判ったということなんだが。
息子の彼から聞いた父親の話。

例に漏れず、彼(父親)は“在日”ということでずっと陰惨なイジメを受け続けて学生時代を過ごした。すっかり成人になってから、新宿の歌舞伎町界隈でばったりとかつてのイジメの首謀者に出くわした。彼は忘れようとも忘れられない顔だ。「おい!」とソイツを呼び止め、「オレを覚えているか?!」と訊ねた。悲しいことに、その首謀者はまるっきり彼の事を覚えていなかった。……どころか、その彼の只ならぬ形相にすっかり怯えている。
そのことが、また一段と彼の怒りに火を点けた。
“オレのことをまったく覚えていないのか?こっちは何度も自殺まで考えたのに……”
“こんなみじめなヤツに中高の青春をドブのような時代にされたのか”

胸ぐらを掴んで、近くの路地に引きずっていって、人間パンチング・ボールかのように幾度も幾度も殴りつけた。10年に渡る怨念が業火になって燃え盛っているのと、急に角を回って来た車にぶつかられたような感じでまだいる相手では、圧倒的に喧嘩のエネルギーが違う。
彼は殴りながら泣き、泣きながら殴った。10年分のうらみつらみを。
気がついたときには、その首謀者は路地に打ち捨てられたボロ雑巾のようになっていて、虫の息だか蚊の息だったらしい。

路地の奥で、人知れずその復讐は終わった。

その話を聞いたときに思わず快哉を叫んだ。溜飲が大いに下がった。誤解を恐れずに……というか恐れて言えば、イジメを受けた子たちはその後の人生でイジメっ子への手酷いリベンジをすればいいと思う。因果応報を仏に任せるのではなく、自らの手で復讐していいと思う。
イジメを受けていた子は永らくトラウマに苛まされて、イジメをやった方は“昔はやんちゃしててね……”などと自慢げなのも腹立たしい。まったくバランス・シートの右左が合っていない。ハムラビ法典を曲解してでも「目には目、歯には歯」でいいのではないかと思う。

クラスのなかには1〜3人くらいの確率で“職業的・犯罪的イジメ屋”がいることは、みんな経験的にも知っている。こいつらは矯正・更正などさせられない。ずっとそう来たし今後もそういう生き方をするだけだ。彼らには、上記の父親がやったような手酷い報復をうけるぞということでしか抑止できないのではないかと思っている。


もうすでに人口に膾炙している話だが、劇作家・演出家・小説家の「つかこうへい」さん。彼は帰化しなかった在日韓国人だ。かれのペンネームである「つかこうへい」は在日の人にも“いつか公平に”という願いが込められているという。
実際に、どうような差別とかイジメとか不公平があったのかは知らないが、このペンネームで心がしーんとするほど分る。
(そして、全部をひらがなにしたのは、日本語が不自由な母親にも解るようにということだそうだ。)

最後まで韓国籍を捨てなかった「つかこうへい」さんは、韓国の舞台・映画にも大きな影響を与えた。彼の逝去の後、韓国MBCは「日本人に多大な影響を与えた劇作家・演出家」として記念番組を制作し放送した。

ちゃんとした大人が推奨しなきゃいけないリベンジってこういう形なんだろうね……。そういう辛い経験をバネにして大きく跳躍をしてイジメなどという陰湿なことをやったヤツラを高い所から見返してやるとかなんとか……。

でもね、高い所まで登れなかった元イジメられっ子ってどうすればいいの?
イジメられ損なの?

(完)