転校生


中学3年生のとき、何人かの転校生がやってきた。そのなかの一人は色が抜けるように白く、目がブルーの女子生徒であった。多分、どこかの代で「白系ロシア人」の血が混じったのだと思う。その上、頭もとても良かった。
彼女は一瞬で男の子たちを虜にした。私も例外ではない。でも、クラスは違うので、屋外グラウンドでの運動会の予行練習などの折に見かけるだけ。それだけでドキドキしていた中三の春。

だが、女の子たちはそう単純ではない。このエイリアン(異邦人)にそうそうは優しくないのだなと分かったことがあった。
(今なら直ちに分るが、彼女は嫉妬されたり、イジメを受ける案件はたっぷり持っていた……。)

もうそろそろ夕暮れが迫るグラウンドにマスゲームの練習の後かなにかで、彼女を含めた5〜6人がいてあまり平和じゃなさそうな話をしているなということが、不思議なことに遠目にも分かった。150メートルは優に離れていたが、その空気は伝わって来た。
イジメ役のボスは私の小学校時代からの幼馴染みであった。お世辞にも可愛くもなく頭がいい女の子ではなかった。唯一つ突出していたところは、オマセというか大人びていたというだけの娘だった。
そのオマセが転校生の女子生徒の胸の辺りをドン!と突いた。すぐに回れ右をして、その他の家来とともに去って行った。
黄昏が迫って来てやや薄暗くなったグランド中央に一人残された美少女。彼女は本当に寄る辺なく儚げにぼんやりと佇んでいた。心が潰れてしまったんだなって思った。そのまま、じっと動かずに10分くらいは魂が抜けたように立ち尽くしていた。

その間の私は、何をやっていたかは忘れたが、とにかく何かをやっているフリをしながら、彼女の姿から目を離せないでいた。
やがて、彼女はとてもゆっくりゆっくりと学校へ、……多分更衣室へと歩いていった。それはまるで擬態語の “とぼとぼ”を映像にしたようだった。

その後、彼女は私とは違う高校へ進み、教育大学へ行き、学校の先生になり、いまは北海道の十勝に住んでいるという。つい最近、人に教えられて彼女のほとんど写真で構成されているブログを見たばかりだ。


http://cadot.jp/topics/13336.html

今回この記事では、あまりにも先生たちが脆弱というか、人の痛みに対する感覚欠如というか、子どもに対する愛がまったく見れれなく論外だ。

だが、また彼女のことを思い出した。あのとき、この中三男子はただバカみたいに遠目で見ているだけで、止めに入るワケでもなく、彼女を慰めるワケでもなかった。このことに対してずっと罪の意識を持ち続けている。
でもどうすりゃ良かったんだ?
中三坊主になにが出来たんだ?

それでなくても、女の子の周囲5メートル以内に近寄ったことさえなかったに……。

そのイジメ屋とはそれ以後一切口をきかないと決めたことが、私に唯一出来たことだった。

(完)