動体視力と視野


運転免許更新の講習に行ってきた。

警察と交通安全協会そして自動車教習所のズブズブの関係が気に入らないし(自動車教習所の上の方はほとんど警察OB……)、講習料が6000円でお釣りがパラパラと小銭だけだ。免許更新にトータルで10,000円ほど掛かるって、日本の民は物分りが良すぎだろっ?……まあ、「泣く子と地頭にゃ勝てない」と泣き寝入りか?

アメリカじゃ、免許更新取得が10ドル程度、車検だってガソリンスタンドで5ドル程度だ。(ここいらは州によって法律が異なるし、現在はもっと値上がっていると思うが……)

とあれ、〝運転するのに十分に能力がある〝という太鼓判をポン!と押して貰ったことは悪い気はしない。
なにゆえか知らないが、とりわけ動体視力の高さと視野の広さは特筆ものだと言われた。
どうも、どうでもいいときに、無駄にいい点数を取るクセがある。


70年代半ば。バージニア州DMV陸運局のようなもの……)で運伝免許のぺイパーテストを受けていたとき。受けたい人がやって来て、出来たらすぐに試験官が採点してOKなら、その場で仮免許証を作ってくれて、立ち去る。後日、試験官が横に乗り路上の実地試験を20分ほど受ける方式。それでOKなら直ちに本免許が手渡される。

(まあ、ここは車なしでは生活していけないアメリカという国と、まだ車の所有に“贅沢税“的税金が掛かり、なるべく車に乗せまいとしているかのような国・日本との温度差だと思う。それでいて、世界に冠たる自動車産業が日本の経済の命綱の一つというのもパロディのようなものだ。)

さて。バージニア州に戻る。
人もまばらになってきた頃、しきりに試験官が私の席近くをウロウロする。
ついに、彼がやにわに手を伸ばして私の答案を取り上げようとする。

「待て待て。まだ全部終わっていない。まだ時間はあるんだよね?」
「いやキミはもう十分に正解している。これ以上正解を重ねても意味はない。とっくに60点は超えていて、すでに80だ」

ハイハイと微妙な気持ちのままで仮免を貰い退出した。彼は奥さんとのディナーの約束でもあったのだろう。


90年代のカリフォルニア州。同じ国なので要領もほとんど同じ。書き上げて試験官の机に行くと、スパニッシュの若者が粘っている。散々な結果なのだが、“そこをなんとか“と哀願している。試験官は頑として譲らず、その南米人は悪態をつきながらようやく立ち退く。
私の答案に穴の空いたセルロイドをあてがい、次々とチェックを入れていく。
「すごいねェキミ!100点満点だよ。おめでとう!」
「ありがとう」


……“こんなところで満点取ってどーする?“


(完)